マスフローよもやま話  第101夜 マルチガス対応はMFC進化の証!? その3 

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 MFC(マスフローコントローラー)のマルチガス・マルチレンジ(以下MGMR)技術(ちなみにブロンコストでは、マルチフルイド(流体)・マルチレンジ=MFMRと呼称します。)のお話です。

前回CF(コンバージョンファクター)をマルチガス対応が一筋縄ではいかない、とお話ししました。
1番目の問題点として、N2との流量比が必ずしも1対1の関係に無いガスが存在すると説明させて頂きましたが、もう少し具体的にお話させて頂きましょう。(敢えて今回のご説明では2番目の問題=バルブ特性のファクターを除き、純粋な流量測定=MFMとしての機能に絞ってご説明します。)

 

N2用に調整されたMFCに、あるガスAを流した場合、N2との流量比率がある1つの比で表される場合は、以下のグラフのような流量特性となります。この場合は1つのCFで算出される流量比で補正することで傾きを調整し、N2MFCをガスA用に調整できるように思えます。

CF_1

ところが実際、ガスAが必ずしもN2と一つの流量比では無かった場合、一例として以下のグラフのような流量特性を示してしまいます。


CF_2


これでは1つのCFN2用のMFCセンサー出力を補正して実ガスを流した場合、見かけ上グラフの点線で示した流量出力が得られていても、実際のガスは実線で示している分の流量になっており、斜線部分の流量誤差が全域で生じてしまうということになります。
これが一筋縄でいかない理由です。

当然この傾向はガス種によって異なるのですが、大変困った事には、よくトラブルを起こしてMFCを即交換しなくてはならなくなるようなガスに限って、こういった傾向が顕著なのです。

次回は、それをどう克服して今のMGMRが誕生したか?のお話です。

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 MFC(マスフローコントローラー)のマルチガス・マルチレンジ(以下MGMR)技術(ちなみにブロンコストでは、マルチフルイド(流体)・マルチレンジ=MFMRと呼称します。)を御存知でしょうか?

MFCという機器は注文を頂く時点で「ガス種」「流量レンジ」を決定して発注頂く製品でした。
いわゆる「受注生産品」なのです。
よくお客様から「MFCの在庫ありますか?」というお問い合わせを頂きますが、一つの型式のMFCでも「ガス種」Ar, N2,O2,CO2,C2,NH3・・・・

F.S.流量」1SCCM1670SLM…それ以上

というようにもすごい数の組み合わせになります。
これに更に継手の種類というファクターも入れると、N2/100SCCMのような比較的オーダーされる可能性が高い組み合わせがメーカーさんでたまたま在庫されていたりする以外は、その全てを網羅した在庫がメーカーや販売店にあるわけもありません。

「そうかな?頼んだら在庫あってすぐ送ってくれたよ!」というのは、貴方の会社がヘビーユーザーで尚且つ大変運がよい方だからです。

MFCの流量校正は、N2をベースにした各ガスの流量比率(センサーの感度比)であるコンバージョンファクター(以下CF)を使用して、実際に指定されたガス種を流さず、N2を流した際の換算値で調整される事が多いです。
なぜなら半導体製造用で使われるような腐食性、毒性のあるガス種の場合、それらを安全に流す設備を準備するだけでも大変ですし、そういったガスを一度流したMFCをそのまま梱包してお客様へ出荷する等と言うことはナンセンスだからです。

こういったメーカーサイドの生産の仕組みを知ったお客様が思いつかれたのが、「じゃあ、全部N2ガスでMFCを使おう!CFの分だけMFCを制御する装置側の信号を補正して使えば、色んなガス種に対応できるし、いいじゃないか?」というアイデアです。

その後のデジタルMFCの黎明期ではCFやその他の設定を従来のアナログトリマを回して調整する方式から、EEPROMへの値の書き込みに進化したことから、出荷後にパソコンからのRS232C通信でその数値を書き換えることができるMFCも出現しましたので、「N2ガスで買った製品を、後からCFを書き換えて別のガスで使ったらいいじゃないか?」という考えが結構増えてきました。

 

でも、それらのやり方は、あまり上手くはいきませんでした。なぜでしょうか?
まず1番目にあげられるのは、N2との流量比が必ずしも1対1の関係に無いガスが存在することです。
流量により直線性が出ない性質を示すガス、また温度、圧力によりN2との流量比が変動してしまう性質のものもありまして、N2ガス用で作られたMFCをそのガス用CFで補正して使っても、必ずしも実ガス流量が正しく制御されないという問題が生じました。

2番目は、CFという観念が一般的にMFCの熱式センサーの感度比のことだけに着目し、ガス種による流量制御バルブの制御特性の変化というファクターを無視していた事です。(メーカーさんは無視していたわけではなく、社内的にバルブ定数を決定するファクターはあったのですが、あまり公にされていませんでした。) 
そのために、例えばN2用に調整されたMFCに、H2を流しますと、CFは近似値ですが、バルブのオリフィス径は全く異なるので、思いっきりハンチングしたりしてしまうのです。

一筋縄ではいきませんね。「これでは使えない・・・」という結論から、MFCMGMRタイプへの進化を促されることになります。

マスフローよもやま話  第99夜 マルチガス対応はMFC進化の証!? その1

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2000年代にメジャーになったMFC(マスフローコントローラー)のマルチガス・マルチレンジ(以下MGMR)技術を御存知でしょうか?ちなみにブロンコストでは、マルチフルイド(流体)・マルチレンジ=MFMRと呼称しています。

 

MGMRタイプのMFCはPCのソフトでガス・流量をある程度の範囲で書き換えることができます。MFCという製品は、基本的にガス・流量・継手等の仕様が決定してから、メーカーで製造する受注生産品です。

そして、一度納入されたMFCのそれら仕様を変更する・・・例えばN2MFCAr用にする・・・といった対応は、メーカーに送り返して使用変更改造して頂くしかありませんでした。

MFMR対応MFC:EL-FLOW Prestigeシリーズ

MFMR対応MFCEL-FLOW Prestigeシリーズ


ところがMGMRタイプが世の中に出現してからは、ある程度の範囲でこの書き換えが可能になりました。
しかも、ものの数分でですから、これはすごいことなのです!
でも、勘違いしないでくださいね。
F.S.1SCCMMFC1SLMにしたり、F.S.50SLMMFC100SCCMにするようなマジックはできません。
なぜならこの物語で都度お話ししてきましたようにMFCの基本構成となる流量を計る=センサー、バイパス、流量を制御するバルブのオリフィス径(Kv値)、アクチュエーターのリフト量というハードウエアパッケージがカバーできる範囲には限界があり、一つの組み合わせで全てのガス種と流量レンジのマトリックスを網羅することは当然できないのです。

ここで「ガス種と流量レンジのマトリックス」という言葉を使いましたが、元来MFCはガス種という観念を独立して定義しているのではなく、実はコンバージョンファクター=CFという流量の相対比で考えています。
N2/100SCCMMFCN2を流すと当然100SCCMAr/100sccmMFCN2を流すと71SCCM程度という形で、ガス種は流量比率だけで定義することが可能なのです。
もちろんガス同士の関係は、単純な一定比率ではなく流量レンジによって微妙に変化する傾向があり、N2を基準としたときに重いガスになればなるほど、その偏差が大きくなるようです。

そういったガスの特性差による比率変動幅は今までMFCの実ガス誤差の要因とされ、メーカーは複数のコンバージョンファクターを準備して対応してきました。
でも、この経験からそういった傾向を実測しデータベース化することで、このMGMRと言う観念が生まれたのです。
一言で「実測」、「データベース化」と言いましたが、実はこの背景にはメーカーの長年の取り組みと、それに対する投資があるのです。
そしてブロンコストはかなり早い段階からこれに挑戦してきました。
その証はFLUIDAT on the Net で皆さんへ公開されているのです。

 

FLUIDAT on the Netはブロンコスト製品のユーザー様向けのオンラインデータベース・計算ツールです。

https://www.fluidat.com/default.asp

マスフローよもやま話  第98夜 フィールドでMFCをチェックするには? その2

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MFC(マスフローコントローラー)の健康診断ツールMFCチェッカーのお話から発展して、今回はデジタルMFC用アプリケーションのお話です。

デジタルMFCと通信のお話は前々回の連載記事でご説明しました。
デジタルMFCのデジタル通信ポート(RS485)を使うと、アナログMFCMFCチェッカーをつないで得られる情報よりはるかに豊富な情報を得ることができます。
流量出力、設定入力だけではなく、バルブ駆動電圧、積算信号、稼働時間、アラーム情報等・・・色んな情報を取り出すことができれば、配管ラインでトラブルが生じているまさにその瞬間に、果たして問題はMFCなのか?それともその他の配管機器にあるのか?を切り分けることが可能になります。

 

マスフローメーカーが提供しているデジタルMFC用アプリケーションソフトは、そういった際に大変役に立ちます。
特にブロンコストの場合、各種アプリが無償でHPからダウンロード可能です。
通常はアナログ信号で制御されているデジタルMFCでも、デジタルアプリケーションソフトをインストールしたPCと通信ケーブルがあれば、簡単に、しかもMFCを配管ラインに繋いだまま情報を収集できます。(下図イメージ)

MFC_multi

こういったアプリは、たいていの場合メーカー独自のものであり、他社製品とは互換がありません。使用されているメーカーに合わせアプリを前もって入手しておかれるの事をお薦めします。MFCメーカーは専業ソフトメーカーではないので、あくまで自社製品のサービスサポート用に開発されたものを、そのまま無償で(ただし、アップデートや保証は行わないという条件付きで)提供されているところもあります。
注意すべき点は、ソフトの扱い方をよくマスターしてから使用しないと、本来MFCのデーターを読み出すために使用したはずのソフトなのに、操作ミスからMFCの初期設定値を書き換えて上書きしてしまった!などという事態が発生してしまっては、元も子もありません。
メーカーによっては、自社サービス専用に非公開コマンド(裏コマンド)を設定しているメーカーもありますが、MFCの事をよく理解せずにそういった領域に触れてしまうと、人為ミスから二次被害が発生してしまうことにもなりかねませんので、呉々もご注意ください。

デジタルMFCは便利になりましたが、その分使う側も色々と勉強しなくてはいけないのですね。

マスフローよもやま話  第97夜 フィールドでMFCをチェックするには? その1

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MFC(マスフローコントローラー)の健康診断はどうされていますか?

一番の方法は、製造元のメーカーさんに送り返して点検校正、オーバーホールをしてもらう事です。
MFCには多くの消耗部品が搭載されています。
熱式流量センサーの巻線は、たえず100℃近い温度で発熱していますので、当然経年変化が生じます。
それ以外にも見過ごされがちですが、電気基板に搭載された電子部品、コンデンサー等は寿命のあるものですし、流されるガス種によりバルブオリフィスには生成物が付着したりします。
そんな状態のMFCですから、使用開始後1~3年たったら健康診断のためにメーカーさんへ送ってもらって、リフレッシュしてもらうのが、最良です。

でも、なかなかそうはいかない現実も見聞きしています。
取り外して修理に出すとなると、長い時間そのMFCは不在になるので、もし生産ラインで使用されていたりすると、交換して使う予備品をお持ちならばよいのですが、そうでない場合はラインを止めることが難しくなります。
また、不具合が発生した際に、MFCの不具合なのか?それとも装置側制御系の不具合なのか?をまずちゃんと切り分けないと、その後の対応が全く違う方向に分岐することにもなり、大きな時間ロスを招くことにもなりかねません。

 

そういった状況下のMFCの健康診断をしていただくのに便利なツールが色々とあります。
ブロンコストの場合は、デジタルツール(アプリケーションソフト)が充実しているのですが、そういったデジタルMFCが産まれる前のアナログ時代に活躍したのは、MFCチェッカーというアイテムでした。


MFC_PS_ROU


このチェッカーは、特に製造装置などで集中制御されているMFCに不具合が生じた際に、大変便利でした。
MFCと装置を接続しているラインにこのチェッカーを割り込ませて、MFCへ供給されている①電源電圧、②MFC
入力されている流量設定信号、③MFCからの流量出力信号をモニターできます。

また中には更に進んで、独立した流量設定機能を持ち、MFCチェッカーから独自の設定信号を送ることでMFCを制御してみて、装置制御系から切り離した条件でMFCは正常かどうか?確認する事ができます。
もちろん確認できるのは、MFCのアナログ信号ピンアサインにある各信号ラインに限定されますが、現場でのトラブル確認の初動としては、必要十分な機能だったと言えるでしょう。

デジタルMFCの時代になると、こういったツールを使わなくても、各メーカーで公開しているアプリを使い、MFCPCを通信させることで更に突っ込んだ内容を確認できたり、応急処置もできたりします。
ですが、そのソフト操作に習熟する必要があったり、デジタルMFCを使っておられても、必ずしもPCと通信できる環境に無かったりすることもあります。
それに当たり前ですが、MFCへの電源供給が絶たれていた場合や、通信ケーブルが断線してしまうとこの便利なアプリは活躍できません。
MFCチェッカーは前時代のアナログな代物ですが、痒いところに手が届くアイテムを準備しておくのは、いざという時に大変有効なのかもしれません。

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